第18回 地学研究発表会プログラム


日時:2006年9月9日(土)14時00分〜

会場:滋賀大学大津サテライトプラザ(滋賀大学共催)


【講演 1】 

出穂 雅実 氏(札幌市埋蔵文化財センター)  「地考古学Geoarchaeologyの最前線」

 地球科学と考古学のあいだには緊密で長い学際的関係が存在するが,考古学者がその関係を見つめなおし,地考古学と呼ばれる調査研究をはじめたのは比較的最近のことである.地考古学は地球科学の概念と方法の考古学研究への適用と定義され,発掘調査から解釈にいたるすべての段階で用いられる重要な研究領域として確かな位置が与えられている.

 地考古学は,その揺籃の地である北米だけでなく世界各地・様々な時代の研究に適用されているが,日本では実際の研究はもとより名前すらほとんど聞こえてこないのが実情である.地考古学の主たる研究目的は,1)遺跡の時間的脈絡の決定,2)遺構・遺物の空間的情況の解析,3)遺跡景観の復元であり,環境と人間の相互作用が近年活発に議論されるようになった日本でも,これらの研究目的は極めて重要である.極東島弧という自然地理学的環境に配慮した地考古学の実践が,今後,日本の考古学で大きな役割を果たしてゆくことは想像に難くない.

 では,これまで日本で展開されてきた地球科学と考古学の学際的研究と,地考古学をふまえた学際的研究とでは,果たして何がどう違うのか.北米・シベリア・韓半島・北海道での諸研究を具体例として挙げ,地考古学の最前線について話題を提供したい.


【講演 2】

 小野 昭 氏(首都大学東京)  「日本の旧石器時代研究の現状―捏造事件以後の整理と問題点―」

 旧石器時代研究の現状について要約してお話したい.具体的には次の4つのテーマについて報告の予定です.1)石器群の変遷について,2)住居,集落について,3)石器用の石材獲得活動と居住のパターン,4)日本列島にいつから人類は居住するようになったのか.

 1)~3)は従来からの研究の展開として現在なにがどこまで明らかになっているかをお話しします.問題は4)です.捏造事件の暴露によって,いわゆる前期・中期旧石器時代の資料が学問的根拠を失ったため,日本列島における確実な人類の居住はいつかがあらためて問われています.このところがおそらく最も重要で興味のある課題でありましょう.整理しにくい問題も多数ありますが,大胆に整理を試みます.

 結論を先に言えば,確実な資料は少なくとも酸素同位体ステージ(Oxygen Isotope Stage以下OISと略記)3の中頃,つまり今から4万年くらい前まで遡るといえます.石器が層位的に連続して出土する関東の諸遺跡において,立川ローム層下部X層を抜けると石器はまったく出土しなくなる点が,再認識されるべきでしょう.宮崎県後牟田遺跡,熊本県沈目遺跡,長野県竹佐中原遺跡,同野尻湖底立が鼻遺跡,東京都西之台B遺跡,同中山谷遺跡,岩手県金取遺跡など,OIS3の中頃の年代に集中する傾向があります.こうした遺跡資料の位置づけが日本列島以外のOIS3の段階の遺跡との比較論としても重要です.

 これは新人(ホモサピエンスHomo sapiens)のアジアへの拡散問題と緊密に結びついており,日本列島に新人が到達したのはいつか,という課題を新たな様相で提起しています.考古学における時代区分論と結びついて重要であるので,枠組みの議論は継続すべきであります.しかし,当面は即物的に「OIS3の考古学」として共通の枠で議論を進めることが必要です.そうすることにより,立場の違いを超えた多様な議論が可能となるでしょう.



(閉会後,懇親会を行う予定です)

滋賀県草津市下物町1091琵琶湖博物館 地学研究室内
(c) 地学研究発表会 after1997
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